Premium talk

対談「グローバル時代のモノづくりとは?」第1弾

作成者: i-pro管理者|2023年 2月 24日

対談「グローバル時代のモノづくりとは?」第1弾

  • 藤本隆宏 教授 早稲田大学研究院
  • 中尾真人    i-PRO株式会社 代表取締役会長兼チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)

元・東京大学ものづくり経営研究センター長で早稲田大学研究院の藤本隆宏教授を招き、i-PRO代表取締役会長兼チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)の中尾真人と「グローバル時代のモノづくりとは?」をテーマに、モデレーターの小谷真生子氏を交えて対談を行いました。その様子を3回に分けて動画でお届けします。その第1弾をお送りします。

 

この動画の内容を、文字バージョンでもご用意しました。

雨の中を降り立ったのは、ものづくり研究の第一人者、早稲田大学の藤本教授。

目的は、i-PROが建設中の最新鋭のモジュールカメラ生産設備の視察。

 

早稲田大学研究院 藤本隆宏教授(以下、藤本教授)「これもモジュールカメラ?」

i-PRO株式会社 代表取締役会長兼CEO中尾真人(以下、中尾会長)「モジュールカメラ、同じものです」

 

案内するのは、i-PRO会長兼CEOの中尾真人。

i-PROの目指す、

「顧客の要望ごとにカスタマイズされたカメラを1台づつ、スピーディーに作る」

それを実現させる生産現場を見て回った。

 

藤本教授1万個欲しい顧客には1万個出す、1個ずつ欲しい顧客には1出すと・・・」

中尾会長「そう」

 

30年以上、生産現場を見続けてきた藤本教授の評価は?

 

藤本教授 「とりあえずはスタートダッシュ勝負と、そう会長はおっしゃっていて、(生産体制の)方向性としてはすごく論理的で分かりやすいですね。このうち手から入るのは“王道”だと思いますね」

 

そんな、世界に勝つモノ作りに挑む経営のプロと、ものづくり研究の大家が初めて語り合う。 

『グローバル時代のモノづくりとは?』

 

小谷真生子(以下、小谷) それでは、今日はi-PROの中尾会長、それからモノづくり研究の第一人者でいらっしゃいます早稲田大学研究員の藤本教授にお話しを伺います。未来のモノづくりのヒントをちりばめる内容になっていくと思うのですけれども、藤本先生は現場、工場だとかそういったところに1000ヵ所以上行ってらっしゃると伺いました。

藤本教授 行っているでしょうね。だいたい週にいっぺんぐらいは行っていますから10002000は行っているだろうなと、国内外でね。

小谷 1000回ご覧になっていると、教授はおっしゃいましたが。

中尾会長 今回、本当にエキスパートでいらっしゃる先生にうちの工場を見ていただくのは、はっきり言って非常に緊張しました。どのような評価をしていただけるか、非常に怖かったです。

藤本教授 いや、もう楽しんだだけです。

中尾会長 普通はですね、(工場を)お見せして、さーっとご覧になった人からいただくコメントが、こちらの意図していることではないことの方が圧倒的に多いのです。こちらが目指していることを正しく理解していただけることは割と稀なのですね。ところが、今回先生に来ていただいて、さらっと工場を一回りされただけで、私が意図していることを完全に読み解かれました。本当に。

小谷 とおっしゃいますと?

中尾会長 工場でも「コストで一番になる」とか、あるいは「量産で圧倒的な規模を稼ぐ」とか、いろんな意図があると思います。その中でも私の工場というのは、お客さんが欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけタイムリーに作るという、「時間で勝負をする工場」なんです。

小谷 工場に足を踏み入れて、何にお気づきになったんですか?

藤本教授 私もう…いつだったか…84年の7月だからもう30年以上前に、大野耐一さん(「トヨタ生産方式」を体系化した元トヨタ自動車工業副社長)とお会いする機会がありました。大野さんのお話しを伺って、それ以来私は大野さんの大ファンでありましてね。大野さんのおっしゃるのは「とにかく流れを作ること、付加価値の流れをつくれ」と。流れを作るということは要するに、まさにスピーディーにモノを流すということで、「そっちを先に考えろ」と。“良い流れ”が出来れば、品質やコストはちゃんとついてくるからと。コストから最初にやっちゃダメよと。コストから入ると品質がおざなりになって納期長くなったり余計なことが起こったりするので、最初にコストから考えてはからはダメ、「流れから考える」というのを叩き込まれましてね。「良い設計の良い流れ」というのが、モノづくり経営学の一つの合言葉なのですね。設計思想のことをアーキテクチャというのですが、(コスト優先とは)違うアーキテクチャで考えておられるなと。

 

「アーキテクチャ戦略」

モノづくりで勝つためには、設計の思想 「アーキテクチャ戦略」をいかに突き詰めるかが重要だと言います。

 

藤本教授 やっぱりある種の設計センスなのですね。(設計センスを)持ってアーキテクチャ戦略が立てられると同時に現場の流れづくりも出来る。基本的に、現場の流れづくりとアーキテクチャ戦略がちゃんとできている会社で負けているところを見たことないのですよ。(i-PROの現場に)行くと、若い人たちが「流れをつくるぞ」という面構えも違う。非常にいい若手の人たちがいてね。僕は会社の大中小関係なく良い流れの工場というのは大好きなのです。

 

そんな中尾が取り組むのは、2019年にパナソニックから独立したi-PROの経営改革。

セキュリティカメラの世界でトップを奪うべく奔走している。

 

小谷 モノづくりの経営に、もっとこういう風にしていこうああいう風にしていこうというお考えで、いろんなアイデアが満載でらっしゃると思うのですが、その中尾さんご自身の一つの軸として、この方が非常に大きく影響していると思うのです。ミスミの三枝さんなのですけれど、中尾さんにとっては、忘れたくても忘れられないという方だと思うのです。

中尾会長 平坦な言葉で言えば「師匠」であり、いやもう厳しい人でしたね。とにかく厳しかった。

 

ミスミグループの名誉会長・三枝匡さん。

部品卸の中小企業を、短期間に年商3000億円を超える世界的企業へ成長させた、伝説的な経営者です。

中尾は40歳の頃、改革に取り組んだ三枝さんの元で経営を学びました。

 

中尾会長 褒められたことはまず無かったですね。

小谷 褒めない?

中尾会長 99%叱責。だけど1%評価してくれた時の有難みっていうのが。その1%褒めてくれるのが上手いのですよ。

小谷 どんな褒め方なさるのですか?

中尾会長 最後に「あれはよくやったな」と。

小谷 9割はきついのだけど最後一言だけ救われると。

中尾会長 そう。そういうことをやって、僕らは鍛えられたのですね。

小谷 藤本さんもミスミの三枝さんの経営手腕はどう見ていますか?

藤本教授 世の中に設計センスの良い会社というのはいくつかあるわけだけど、アーキテクチャ改革というか、アーキテクチャイノベーションを最初からやっている会社。凄いことです。

中尾会長 そうですね。

小谷 そのDNAを中尾さんが受け継いでいる?

藤本教授 もちろん。

中尾会長 (ミスミのアーキテクチャイノベーションの)その原型を作ったのが三枝さんの前の(社長)田口さんでした。それを体系化して発展させたのは三枝さんです。

小谷 モノづくりというところで、(三枝さんからの教えで)これはもう染みついたなというものがありましたら一つ。

中尾会長 細かいのですよ。

小谷 細かい?

中尾会長 はい。私が上海に赴任していた頃、上海で物流センターを作りました。(その)物流センターに部品の棚があって、奥行きが45センチだったのです。その棚に置く部品の箱の奥行きが38センチだったか、39センチだったか、要は6センチ7センチ無駄があるわけですね。これをものすごく(指摘された)。

小谷 無駄っていうのですか、それ?

中尾会長 そうですよ。だって45センチの奥行きの棚に39センチの奥行きの箱が入っているわけですから、約5センチの差があるわけですよ。これが何十列もあったら、この分、何メートルの無駄になると思っているのかと。

小谷 ああ、そういうことか。

藤本教授 家賃を払っているものね。

中尾会長 そう。棚を作り直すわけにはいかなかったので、箱を作り直しました。はい。やっぱりそれぐらいこだわらなければいけないのだなというのが、私にとっての教訓になりましたね。

 

中尾は、三枝さんと

それまでは、受注ごとに設計図面から部品を作りあげていた手間のかかる作業を、

全く違うビジネスモデルとして作りあげました。

 

小谷 お二人でどういう改革をなさったんですか?

中尾会長 彼が社長で、僕は金型事業部の事業部長を拝命して。金型の部品を作って売ると、平たく言えばそういうことですね。例えば「こういう金属の部品が欲しい」と。あるお客さんは部品の直径が20ミリ、あるお客さんはそれが15ミリだと。長さは38ミリだ、45ミリだといろんなことを言ってくる。素材は、硬さは、表面処理はどうしてくれ、と。普通はこれを図面でお客様は発注をします。ところが、これをある程度半製品であらかじめ作っておくのですよ。いくつか半製品で何種類か持っておき、これだけの種類を用意しておけば、どんな注文が来ても手早く仕上げて出すということが可能になります。半製品は、大量生産・計画生産でなるべく安く作って、それをやって一個からすぐに納品する。

 

半製品としてある程度まで作った部品を用意し、

注文が入った時点で、依頼に合わせて一気に作り上げる・・

そんな斬新な手法で、スピーディーに、安く、部品を供給することを可能にしたのです。

 

中尾会長 これだけじゃなくてその売り方も、営業マンがお客さんの所に行って「いかがですか、いかがですか」って注文を取ってくるのではなくて、それをカタログという形にした。図面で注文するのが普通だったのを、全部カタログの品番で注文する(形に変えた)。そうするとファックスで(注文を)もらえますよね。それによって受注のコストが劇的に下がりました

藤本教授 「何番くれ」と言ったらパッと来る。そういうまさに“舞台”を作ったわけですね。その舞台の中でみんなが取引する。まさに「プラットフォーム」というのが今大流行りですけども、こんな何十年も前にプラットフォームを作ったのですね。まさに設計思想を最適なものに変えていくのだというのを、初代田口さんがやって、三枝さんとずっとその流れでやってきて、ついに全てについての合理化が完成したのは最近です。これは凄いですよ。

中尾会長 本当に今でも僕は敬服します。あれがあったからこそ、今の私があるのですよね。いや、きつかったです。毎週末、僕は沈痛な思いで週末を過ごしていました。だけれども、あれがあったから今がある。だからもう感謝しています、本当に。

「グローバル時代のモノづくりとは?」 第2弾はこちらで公開中です!