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対談第2弾: i-PROの成長戦略

作成者: i-pro管理者|2023年 3月 14日

第2弾「i-PROの成長戦略」

[前回の対談はこちら] 第1弾「グローバル時代のモノづくりとは?」

第2弾では、i-PROの成長戦略の二つの柱である「オープンポリシー」と「タイムベース競争」を取り上げます。

 

この動画の内容を、文字バージョンでもご用意しました。

数々のモノづくり企業の改革を行ってきた中尾。2019年に経営を任されたのが、当時パナソニックから独立したばかりのi-PROだ。その事業の中でも、かつてトップシェアを誇った歴史ある監視カメラ事業について、中尾はある事実を知り、愕然としたという。

 

小谷真生子(以下、小谷) 2019年にi-PROの再建にいらしたわけですね。

i-PRO株式会社 代表取締役会長兼CEO中尾真人(以下、中尾会長) 再建というよりも、これはもともとパナソニックの一事業部だったのです。一事業部が分社で切り出されて、外部の資本が入って独立をした。

小谷 どういう状況だったのですか?

中尾会長 「パナソニックの技術は世界でもトップクラスです」と言われてこの会社に入りました。確かにその通りだよなと思いました。ただ、残念ながらカメラを評価する第三者機関の評価を見ると――あれ?パナソニックのカメラ、ビリじゃん――。「え、どうして?」と聞いたら、「そりゃそうですよ、これ4年前の製品ですから」というわけです。他社は1年前に出たものや最新の製品で評価している。なんでウチは最新の製品を見てもらえなかったのかと聞くと、「うちは最新製品を、まだ出していませんから」というわけですよ。 

 

競争力を失った理由は、新製品をスピーディーに出せなかったこと。実はそこには、日本のメーカーによく見られるモノづくり手法の問題点があると、藤本教授は指摘する。

 

早稲田大学研究院 藤本隆宏教授(以下、藤本教授)モノづくりには「すり合わせ」と「組み合わせ」というつくり方があるわけです。バラすと全部特殊部品ばっかりで出来ていて、本当に最適設計で作る――自動車なんかはそうですね。パソコンは秋葉原なんかで部品を買ってきて「寄せ集め」でできてしまう。こっちはアメリカや中国が強くて、日本はチームワークの国だからチームですり合わせて作る自動車のような製品が強い。ところが、こちらの思い込みで「すり合わせないとお客さん喜ばない」言っているけれど、アメリカや中国は「うまく工夫すれば寄せ集めで同じようなものができますよ」と。だから日本はやりすぎ。

中尾会長 「このモデルを作ろう」と決めたら、とことんこだわるんです。設計に着手してから販売するまで2年以上かかりましたと。ですから、これが、我々が負けてきた一つの原因だと思うんです。

 

より良い製品にするために、その製品専用の部品を一つ一つ作り丁寧に「すり合わせ」、作り上げていく日本のモノづくり。しかし、変化の早い時代には、汎用品の部品を集めスピーディーに作る手法「寄せ集め」が、圧倒的に有利な場合があるという。

 

小谷 確かに消費者としては早く欲しいですよね。比較すれば優位性の差はあるかもしれませんけれど、(技術は)日進月歩なので、場合によっては買い換えるから「とにかく早く欲しい」ということがありますね。

藤本教授 「寄せ集め」と「すり合わせ」で品質に大きな差が出るなら、日本は良いものを作って勝てるのです。でも、その差がわずかなものだとしたら、「この違いが大事」とか言っているとスピードで負けて、そうすると全体のビジネスモデルで負けちゃう。

中尾会長 まさにその通りです。いかに早く最新のセンサーを使い、最新の半導体を使って、最新の技術を製品に展開していくか。これをやろうよと。その端的な例を、今日はお持ちしたのです。

 

実はこの電子基板こそ、成長戦略の肝。

 

中尾会長 これは、街にある監視カメラ(と同じ中身です)。

小谷 (街で見かけることが)ありますね。これが入っているのですか?

中尾会長 これです。これ(中身が)三層構造になっています。

小谷 なっていますね。

中尾会長 (該当部分を指さして)これがカメラのレンズでなんです。

 

一体この電子基板に、どんな秘密が隠されているのか? i-PROの開発部門を訪ねた。

「自由に組み合わせて、お客さんが『AIが欲しい』と言えば、AI付きに全部変えられる。」

i-PROが独自に開発したのは、モジュール方式という新たな設計思想で生産するカメラだ。あらかじめ何種類も用意したカメラや動作をコントロールする部分の基盤を、顧客の要望に合わせて組み合わせることで、あっという間にカスタマイズされたカメラを作ることができる。

「レンズが違う、センサーが違う、システムオンチップが違う、インターフェィスが違う――お客様の『これとこれを組み合わせて欲しい』という注文がくると、『はいわかりました!』と全部組み合わせて出荷する。簡単に組み合わせるだけで世界に一台のカメラが作れるようになる。」

例えば、画像解析のAIを搭載した基盤を選べば、たちどころに画像解析アプリを動かせるカメラができるというわけ。このモジュール方式の開発により可能になる製品の種類が、

「ありとあらゆる違いを1500通り、これらの組み合わせで実現できる。それを1個から買える。」

実際、i-PROでは、1年に発売できる新製品数も飛躍的に増加。一つの製品にかかる開発期間も半分にまで短縮することが可能になったという。

これが中尾の戦略、タイムベース競争。

 

小谷 組み合わせなんですね。

中尾会長 全部組み合わせです。だって、この中にAIが入っているのですよ。

小谷 ほう。

中尾会長 これを買ってきて(AIアプリを入れて)コンピューターに繋ぐと、ここに何人いるか、カメラが勝手に数えてくれます。その中で何人がマスクつけている/つけてない、そんなことまですべてカメラが教えてくれます。サーバーに繋がなくても。そういった高機能のものを、モジュラー設計でありとあらゆる形に展開できるようにしたというのが、今回の大きな違いなわけです。今までの「すり合わせ」の設計から「組み合わせ」の設計に変えた。

藤本教授 要するに、安い固定費でカスタマイズできるというのは画期的なことなのですよ。日本はカスタマイズ大好きですけど、「カスタマイズは高いよね」、だから「日本はパス」みたいに言われていたのですよね。でも、日本の製品はもともと良いものだから「安いカスタマイズがあったら買いたいね」という話になって、仕事が戻ってくる可能性があるのですよ。

小谷 ある程度“お出汁”を取っておいて…

中尾会長 そうです、その通り! レストランの仕込みと同じです。

小谷 これ(モジュール)が“お出汁”ですよね。お吸い物もできれば煮物もできて、1番の軸になるものですね。

中尾会長 その通りです。実は、このモジュラー設計って、なんか簡単そうに聞こえますけど、汎用的なモジュールを設計するというのは技術的には難しいんです。なぜならば、先程お出汁の話をされましたよね。お吸い物に最適なお出汁と煮物に最適なお出汁は微妙に違うかもしれません。ところが両方に使って美味しいお出汁を作るには、相当考えないといけませんね。これも同じことが言えます。ですから、ちょうどいい頃合いで、この汎用モジュールを作り込まなくちゃいけない。

藤本教授 いま、納期っていうものが、下手するとコストより大事になってきている。

中尾会長 いや全くその通りです。

小谷 そうなのですか?

藤本教授 今まさにパンデミックがこれだけ起きて、あちこちの工場がロックダウンで止まる中で、日本の工場ってあまり止まらないですよね。止まることによる逸失利益を考えたら、日本が10円20円高いの安いのは関係ないじゃないっていう話がある。

中尾会長 おっしゃる通りです。

藤本教授 そういう意味で言うと、このスピード勝負っていうのは、グローバルサプライチェーンの再構築の話にもなっいるわけです。

 

実は中尾、i-PROにやってきた時、もう一つある問題点に気づいていた。それが、パナソニック時代から続いていたビジネスの全てを自前で提供しようという戦略。 

 

中尾会長 セキュリティカメラというのは、単独では動きません。ネットワークで組んで、監視室で見られるようにして、いろんなものが複合的に組み合わさる、そういう品物です。パナソニックは、これらを全部まとめてお客様に納入しようと――”もうモノづくりでは儲からん、コトづくりだ”、”ソリューションを売りなさい、品物ではない」”――というのが戦略の要になっていったわけです。でも本来、我々のカメラは、そういうシステムを作るシステムインテグレーターさんに売ってなんぼのものです。ところが、システムインテグレーターさんの仕事も取り上げてしまうかたちに、競合してしまうわけですね。パナソニック全体では、そのソリューションという考え方は正しいのかもしれませんけれども。

藤本教授 言葉遊びになり勝ちなのだけど、よく「モノからコトとへ」と言うじゃないですか。だけど言葉として「モノからコトへ」というのは厳密に言うと間違いです。モノがなかったらコトは生まれないのだから。

小谷 おっしゃる通りですね。

藤本教授 タクシーが無かったらタクシー運転手はいない。良い運転手がいて、良い道があって、良い車があってのコトですからね。「モノからコトを」なんですよ。じゃあ問題はね、そこからそれをベースにして「モノからコトを」へ行くべきか、あるいは、きちっとモノを作ってコトの人と繋がるか。どっちがいいか悪いかじゃなくて、それはその時の情勢判断だと思うのです。

 

そんな中、中尾が打ち出したもう一つの戦略が、オープンポリシー。
カメラ作りに集中する一方、周辺のシステムやソフト開発は誰とでも手を組むという戦略だ。

 

中尾会長 オープンポリシーというのは、いってみれば間口を広げる。我々の製品を買ってくださるお客様を増やすっていうことですね。旧パナソニックの製品は絶対に安心だ、かつ、自分たちの仕事は脅かさない。だったら組むぜという人たちがいっぱいいるわけです。

小谷 すると仲間が増えるわけですもんね。

中尾会長 その通りです。

小谷 しかも、みんなトップ・オブ・ザ・トップだから、ものすごいスピード感で良い製品を出していける。

中尾会長 餅は餅屋。私自身がアメリカやヨーロッパに行って、「誰よりも先に一番良いテクノロジーを製品化して皆様にお届けしますので、我々のカメラを選んでください」と言って回りました。今はこのやり方というのがある程度正しくて、成長のカーブが見えてきたので、みんなそれに向かって走っています。

小谷 それを提唱する一番初めは結構大変だったのでは?

中尾会長 大変でしたよ。

小谷 ですよね。なんで?と。内包してブラックボックスだったものを、いやいいんだ、外と組むんだというのは、初期の段階では結構勇気のいることじゃないかなと。

中尾会長 すごく抵抗されました。僕は、それをみんなに納得させるためにゴールドラッシュの例え話をしました。みんなは「ソリューションを捨てちゃったら儲からなくなるだろう」と。ソリューションって今流行りだし、監視カメラメーカーと言われるよりAIソリューションを目指していますという方がかっこいいわけです。AI ソリューションはすごく聞こえが良い――これはゴールドラッシュで「金脈当てれば儲かるぞ」というのによく似ているのです。何千何百人の夢を追いかける人たちが、みんな西部に出て行って金を掘りまくったわけですね。でも一番儲かったのは誰だったか? 僕が知る限りでは、ジーンズを作ったリーバイ・ストラウス。

小谷 なるほど、作業する人たちがみんな着た。

中尾会長 リーバイ・ストラウスは金を掘りませんでした。僕は「金を掘る人にジーンズを届けよう」と。「これ(モジュールカメラ)がジーンズです」。ただ、ジーンズで差別化するためには、他にもジーンズを作る人がいるから、ナンバーワンのジーンズになるにはどうすればいいのかというのが、先ほど言った「タイムベース競争」。人よりも早く最新の技術を届けよう。そのためにはモジュラーアーキテクチャが鍵になると説得しました。
言ってみればオープンポリシーはパスポートのようなものです。じゃあ、実際パスポートがあってもゴールまで、目的地まで行けるかと言うと搭乗券がなくちゃいけませんよね。この搭乗券が、僕はタイムべース競争だと思っています。お客様から受注をいただいてからモノを届けるのに少しでも早く、そういう事を考えて、タイムベース競争というものを打ち出した。この二つの方針は表裏一体、車の両輪と言ってもいいかもしれません。

 

モジュール方式を駆使し、スピードにこだわるタイムベース競争と、オープンポリシーの2つの戦略で結果を出しつつあるi-PRO。そこから見えてきた、日本のモノづくりの可能性とは?

 

小谷 でも、どうなんでしょう? モノづくりというものが、少し昔に立ち返ると半導体や家電もそうですが、結局韓国・中国に持っていかれて、日本のモノづくりはだんだん競争力を失っていくのではないかと言われていた時と、やっぱりモノづくりだよねと原点回帰した今と比較すると、モノづくりの概念は変わったのですか?

藤本教授 全く変わってないです。

中尾会長 変わってないと思います。

小谷 変わってない? そうなのですか。

藤本教授 (そういった)錯覚に対して「あ、錯覚だった」と思ったということじゃないですか。この30年間で、実質ベースで見ると80何兆円と言われた製造業の付加価値が、今は110兆円ぐらい。全然減ってないんです。ということは、何かを売っていますし、だいたいその中で良い時は30兆円、今でも約20兆円の貿易黒字ですよ。結局(モノづくりは日本の)十八番なのです。この30年間、散々なことを言われたけど。その中で局地戦で何回か大敗しているわけで、それがテレビだったり半導体だったり。

小谷 そこが大きく取り上げられて、モノづくりはもう時代遅れ、日本はもういいよねという風潮になってしまってきている。

藤本教授 そう、だから昔と逆で、局地戦で2回ぐらい負けたから全部負けだと言っている。

小谷 中尾さんはどうですか?

中尾会長 先生のおっしゃることに全く賛成です。まだまだ僕は製造業で勝てる余地はいっぱいあると思います。

小谷 昔のようなやり方じゃダメだと。

中尾会長 ダメだと思います。我々のカメラを選んでいただくためには、我々のカメラが他社のものよりも良くなければいけないわけです。それをどうするか、その余地はまだまだある。他社よりも”鼻の差”一歩勝てれば、それを継続していけば必ず勝てる。

 

「グローバル時代のモノづくりとは?」締めくくりの第3弾を近日公開します。どうぞお楽しみに!