進化することで新たな地平を切り拓く

作成者: 尾崎 祥平(おざき しょうへい)|2020年 10月 1日

世界的にセンシングデバイスの重要度が高まるなか、2019年10月に新会社として大海に漕ぎ出したパナソニックi-PROセンシングソリューションズ株式会社。代表取締役社長 兼 COOである尾崎祥平は、様々な現場を経験することで培った経営センスを武器に、その舵取りを担います。尾崎が目指している組織としての「進化」、国内外でとるべき「戦略」、そして、その先にある「未来」について、話を聞きました。

経営者としての資質を磨いたパナソニック時代

Q. 新会社が設立され1年が過ぎました。社長の仕事にも慣れましたか?

まだまだ、慣れませんね(笑)。元々、経営的な観点をもって仕事をしてきたので、パナソニックグループ時代、事業部長になった時も、現場時代からの大きな断絶はありませんでした。経験を積むことによって、徐々にプロジェクト・マネジメントの責任範囲を拡大していった感じです。でも、社長は違いますね。事業部長と社長の仕事の間には大きなギャップを感じます。会社を運営するうえで、考えなくてはいけないことが、本当にたくさんある。会社として自前で持つべき機能を早く整備しなければならないし、急ピッチで社内的な変革を行わなければいけない。もちろん、私自身も変わらなくてはならないと考えています。

Q. 長年、官公庁向けのシステム開発の事業を手掛けていたそうですが、そこで学んだことは何でしょうか?

エンジニアとして、ソフトウェア開発やシステム設計を手掛けるわけですが、官公庁がお客様の場合、それだけをやっていればいいわけではありません。技術的な視点に加え、経営的な視点が必要になります。
品質を確保しながら、お客様が要望する要件を具体化し、さらに原価を最適化するということに頭をひねります。加えて、中期的に戦略を立てることが重要になってきます。たとえば、2年後に大規模な入札が予想されるとします。そこに向けてどのような準備を行うか、どういう技術的な課題を解決すればよいのか、どういう強みで勝負するのかなど、様々な側面から戦略を練りました。そうすることが、結果的にコストを最適化する近道でした。
これらの経験は、いまも私のなかで生きています。

「より大胆に、柔軟に」〜組織も変革の時を迎えている

Q. 一事業部が会社として独立したことで、何が大きく変わりましたか?

大きな企業グループに属していると、様々なベクトルが入り乱れている状態なので、戦略的な判断を下すまでに時間を要したり、投資のスケーラビリティが機能ごとに分断されたりといった問題に直面することもあります。新会社設立を機に、そのようなジレンマを解消し、より「軽く、早く」事業を回していくことが可能になりました。今後は、一つの事業に対して最適なフォーメーションがとれる、「スモールでコンパクトな組織」に進化させたいと考えています。

Q. 新会社が目指すべき組織像はどのようなものであると考えていますか?

新会社のコーポレート・アイデンティティを打ち出す際に、3つのキーワードを掲げました。それは、「柔軟」「大胆」「誠実」です。
我が社のメンバーは、本当に「誠実」。これはすごく大事なことです。加えて、リスクに敏感で、石橋をたたいて渡るタイプが多い。この点は、マインドを変えていく必要があります。
今後、我々がスピードを上げてビジネスを展開していくにあたっては、より「大胆」で「柔軟」であることが求められます。大きな会社にはない、ある種の「ベンチャーイズム」が必要になってくるでしょう。

さらなる成長を目指し、国内・海外で描く戦略

Q. 国内のマーケットについて、どのようにご覧になっていますか?

当社は、おかげさまで、国内のセキュリティカメラ市場でシェアNo.1を獲得しています。それは、先人の努力の賜物ですね。しかし一方で、年々、海外勢の攻勢が強まっているのも事実です。これに対し、どうやって防衛していくかということが、今後重要となってきます。また、改めて国内を見直すと、これまでやりきれていなかったことがあることがわかりました。それを炙り出して、手を打っているところです。

Q. 海外のマーケットで重視している国はどこでしょうか?

海外市場では、アメリカをメインに攻めていきます。新会社設立により、アメリカでは開発・製造・販売が一体となったフォーメーションをつくることができました。おかげで、よりスピーディに事業を進めることができます。アメリカのセキュリティ・カメラ市場は、中国系メーカーが排除され、西側諸国のメーカーがしのぎを削っている状況です。現在でも市場規模が大きいのですが、さらなる規模拡大も期待されます。

Q. アメリカ以外の国・地域での展開はいかがですか?

アメリカ以外の市場で、どうやってシェアを伸ばしていくかということは、大きな課題です。アジア諸国では、まだまだ、中国メーカーの強さが際立っています。また、EU圏でのシェアも満足のいくものではありません。これらのエリアでも、戦略を見直して、今後巻き返していきます。

「モノづくり」の復権を担い、信頼される会社へ

Q. 生まれたばかりの会社、i-PROのアイデンティティとは、何でしょうか?

メーカーに徹するということです。AIや画像認識技術が進化していくなかで、センシングデバイスに求められる要件はますます細分化し、ソリューションが多岐にわたってきました。それを一つの企業が一気通貫で提供することは非常に難しくなっています。我々に問われているのは、そのようなソリューションに対して、いかに最適なセンシング技術をいち早く提供していくかということです。
今までは、エンドユーザーが自分たちのお客様だと思っていました。でも、本当のお客様はソリューションベンダーだということに気付いたのです。彼らの要望に応えるためには、開発スピードももっと上げていく必要があります。
そうなると、全てを自社で手配する「自前主義」は足かせになる可能性もあります。今後は、ソフトウェア、AIアプリケーションなどを開発するパートナーを増やしていきたい。そして、彼らとは、対等な立場で協働していきたいと考えています。そのためには、「誠実」でなくてはならない。我々はその「誠実」という遺伝子をもっています。
そのうえで、品質を高め、開発のスピードを上げていくことによって、メーカーとして信頼される会社になりたいと思います。

Q. 「モノ消費からコト消費へ」というフレーズが叫ばれてきたなか、あえて「モノづくり」を標榜するとは意外でした。

セキュリティ業界では「コト」の市場は顧客ごとに千差万別です。それらの需要に広く応えていくためには、自前主義ではなく、「コト」事業を推進されるお客様に対し、よりよい「モノ」を提供していくことが重要です。
もともと「モノからコトへ」の背景には、スペックや機能で商品を差別化することが困難となり、デジタル製品は、すべからくコモディティ化するのではないかという危機感がありました。しかし、我々が事業を展開しているセンシングデバイスの分野では、まだ技術的に伸長する余地が大いにあります。たとえば、AI技術もチップに内蔵されたりなど、ますます高度化している。つまり、製品がコモディティ化しているような状況ではないのです。
最近、IoTが注目されるなど、ようやくリアルなモノの価値が復権してきたように思います。再び、メーカーの時代が来るのではないでしょうか。そんな時代に、我が社はきっと飛躍できると信じています。