現在はコーポレートテクノロジー機構プラクティスに所属する水町靖が、光学機器メーカーからi-PROに籍を移したのは2020年7月のこと。福岡市出身で博多区の高校に通っていた水町は、「博多区の企業が光学の職で募集をしていることに運命的なものを感じた」そうです。単なる技術者の枠にとどまらず、ビジネス全体を俯瞰する視点をもった彼が向かう先はどこなのか、じっくりと話を聞きました。
光学の知識をより生かすための転職
前職から光学一本でやってこられたと聞きました。光学って難しいイメージがありますが、おもしろいものなんですか?
いい質問ですね(笑)。私もまだ技術の神髄には迫る事はできていませんが、「美しい光の理論式」と「泥臭い加工や調整技術」の組み合わせのギャップに魅了されました。また、目でとらえる事が出来ない光をコントロールするって面白いと感じていいます。
i-PROに転職したきっかけを教えてもらえますか?
前職では、DVDプレイヤーやCDプレイヤー、ゲーム機に使われるピックアップレンズの開発を担当していました。しかしDVDやゲーム機のデータ配信がクラウド化されるなどで年々レンズの需要が減っていき、開発しても売れない状況にモヤモヤが溜まっていまいた。
そこで会社を変えてみようかなと思ったんです。
入社したのは、i-PROがパナソニックからカーブアウトした翌年ですね。当時はどのような心境でしたか?
不安と期待の両方を感じていました。まず、カーブアウトした結果、会社が潰れたらどうしようという不安。生活できなくなるかもしれない。一方で、i-PROという会社は大きく変わろうとしている。そこに参加して自分のもっているスキルを生かすことで、大きく貢献できるんじゃないかという期待も抱いていました。
i-PROに入社するまで監視カメラとの接点はなかったと思いますが、光学の分野で監視カメラならではのことってあるのでしょうか?
正直に言うと、あんまりないんですよね。でも、デジカメやスマホに搭載しているカメラは、人間に見せるためのものなので、歪んでない画像が望まれますが、監視カメラの場合は、画像が少し歪んでいても証拠価値があればいい。きれいに見せることを少し犠牲にしてでも、たとえば広い範囲を撮影するとか、そういったことを優先する場合はありますね。
i-PROにおける光学設計とは具体的にどのような業務内容なのですか?
世の中にあまたある光学レンズのなかなら、対象となるプロダクトに適したものを選びます。性能や価格はもちろんのこと、調達を安定して継続できるのかといった視点も欠かせません。選んできたレンズを数μmオーダーで調整しカメラに取り付け、様々な照明や環境に対応するための技術工夫を毎回実施しますが、製品が完成すると、想定外の不具合が数多く発生します。実験とシミュレーションを取り入れた不具合の発生原因特定に加え、部品メーカーとの数十回を超える技術交渉を通して問題解決することも私たち光学チームの主要な業務のひとつですね。
幅広く情報を収集し未来への準備を怠らない
i-PROは国内の監視カメラ市場ではトップシェアを誇っていますが、海外ではチャレンジャーです。今後海外で飛躍するうえでの課題はどのあたりにあるとお考えですか?
トップに追いつくために他社の製品を分析するわけですが、昨年の技術に追いついたとしても、周回遅れは埋められない。他社もどんどん進化しているわけですから、1年後、2年後、さらにその先も見据えて行動しなくてはなりません。i-PROにはもっとその観点が必要だと思っています。
そのためには、無駄になるかもしれないけども、幅広く構えて下準備をする必要があります。他社がなにか新しいことを始めたとしても、準備をしていれば、即座に対応ができます。
i-PROはエンジニアとしての平均的な能力は高いと思います。だけど、ばらつきが少ない。とんでもない能力とか世界一の技術をもっているエンジニアというよりは、平均値が太い印象です。だから、多様性の部分で少し弱いように思います。
そんなに簡単な話じゃないと思いますが、営業の人が開発の部署に行ったりとか、開発の人がなにかを売りに行ったりとか、先々を見越して製品企画を自分で立ち上げたりとか、そういったことも必要じゃないかな。
会社のカルチャーについて、お感じになることがありますか?
上司とのコミュニケーションが丁寧だなと思いますね。みんな組織として仕事をするのが上手なんだろうなと思います。
でも、さっき言った、無駄になることも覚悟し、幅広く構えて下準備をするということを考えると、社員がある程度自由じゃないといけないと思うんですよね。ピシっと組織化されると、幅広く構えるということがなかなかできない。上司が部下を放っておくということも大事だと思います。
会社のカルチャーについて付け加えると、私はこれまでスパルタ指導されてきて、いわゆる昭和スタイルというやつなんですが、いまもそれが体に染みついています。仕事には質と量の軸がありますが、私はまず質よりも量が必要だと思っています。効率化、DXって言うけど、絶対的にアクションの量が足りないって、常に言っています。そういう私のスタイルがi-PROの統制の取れた働き方とマッチしない場面もあるかもしれません(笑)。
いまいる顧客こそがi-PROの「強み」
i-PROの優位性はどんなところにあるんでしょう?
顧客をもっていることはすごい優位性だと思うんですよね。新しい製品をつくったり、新しい技術、サービスをつくったときに、ゼロから「こんにちは」って言うのではなくて、いまもっている顧客にアクセスできるわけですから。新規のメーカーはどんなにがんばっても、なかなかお客さんにアクセスできない。i-PROには、いままで先人たちが築いてきた信頼やビジネスを続けてきたっていう基盤がある。それは大きな強みだと思います。
ただ、いま顧客が求めているスピード感だったり、多様なニーズだったりに、キャッチアップすることがi-PROに求められていると思います。そこを合わせられれば、もっとできることが増えるはずです。
技術者も含めてもっと既存や潜在顧客のところに行って、話を聞かなくてはならないということですね。
車載カメラに関わっていたときに、ビジネスの顧客である自動車メーカーだけでなく、街中にあるカーディーラーを訪ね、カメラがどんな使われ方をしているかや困ったことはないかといったヒアリングを、業務に関係なく実施していたことがあります。当然90%以上不審者扱いでしたが(笑)、正直に車載カメラのことをお聞きしたいと言うと、親切に教えてくれる方もいました。非常にありがたかった記憶があります。
そういうニーズや技術ヒントを得る機会は自分でつくり出すものだと今でも思っています。i-PROでもお客さんのところに足を運んでいるのはプロジェクトリーダーくらいかもしれない。新しいお客さんとか調達先を自分で見つけてくるということもまだまだ少ない。それは課題かもしれないですね。
一番大事なのはお客さんの声を聞くことですが、2番目はお客さんが自身でも気づいていない本当に欲しいものがなんなのかをヒアリングを通して見つけ出す事だと思います。そんな力を技術者も身につける必要がある。「本当はこのことで困ってるんじゃないんですか?」「本当はこうしたいんですよね?」って感じで、こちらから言語化して提案していく。こんなことは、お客さんのビジネスフローを知らないとできないので、やはり、お客さんのことを誰よりも知るということが大事ですね。
水町さんは未来をどのように予測していますか?
いまの延長線上には明るい未来はないと思ってるので、連続的じゃなくて、非連続な変化が必要なのかなと思います。だから、製品もいまの延長線上ではないものをつくってみたい。そして、私自身がこれ欲しいな、お金を払って買いたいなと思えるものに携わりたい。
たとえば、介護の現場だと、病気に加えて痴呆が入っている方もいるじゃないですか。そんな人の表情とか目の動きとかをセンサーで捉えて、心拍数などと組み合わせて数値化するということを研究してる人がいます。人の気持ちを少しだけ見えるようにして、介護に携わる人の負担を軽減する。そんなふうに困ってる人の役に立って、「おーっ!」と感動できるものができたらなと。
「ゲームチェンジ」に対応していかなくてはいけませんね。
社外の人と議論する機会を作るようにしています。大企業、ベンチャー、年齢、業種を問わずいろんなバックグラウンドを持つ人と飲みに行くんですが、今の自分にはない視点を持つ起業家との話はおもしろいことが多いですね。あるとき、新規事業やビジネスを創るにはどうすればいいのか、素直に聞いてみたんです。「なんで変化に乗れるんですか、変化を察知できるんですか?」って。すると、「変化に乗らないと生きていけないから乗るだけであって、別に変化を見越してないよ」と。常にアンテナは立てているけど、それはそういう環境に置かれているからであって、能力じゃないよと言われて、すごくしっくり来た。
i-PROでは目線を先の方にもっていって、幅広く準備しておく、予測しておく。そこから遡って今年やること、来年やることを決めるバックキャスティングをやっていきたい。
最後にi-PROがこんな会社になればいいというような希望を教えてください。
i-PROで働いてみたいと言われる会社になればいいのではと思っています。そう思われるのって、やりがい、成長機会、給料、環境、福利厚生とかいろいろあるかもしれないけど、それだけじゃなくて、「水町がいるな。なんか雰囲気よさそうだな。なんか俺も一緒に働いてみたいな」って思うような会社。
私自身も、i-PROに入って正解だったか、ほかの会社の方がよかったか、正直に言ってわからないんですけど、いろいろと動いてみて楽しいことができればいいなと思うし、それを見て、一緒に働いてみたいと思ってもらえるといいですね。